Tom Lang 先生による「統計の基礎 」 シリーズ

4. リスクの尺度を理解する

イントロダクション Introduction

安全性とリスクは、公衆衛生上で最も議論される重要な問題です。「私が麻疹にかかるリスクはどれくらいか」「この化学物質はがんのリスクを増加させるか」「この薬剤で脳卒中のリスクはどの程度減るか」「手術が成功する可能性はどれくらいか」など、医学領域では、あらゆる治療介入の目的は利益となる確率を高め、有害となる確率を低下させることにあります。こうした確率は多くの場合、リスクとして報告されます。 US National Academy of Scienceは、リスクを「イベント(通常は有害事象)が発現する確率とそのイベントの性質と重症度を組み合わせたもの」と定義しています。言い換えると、リスクとは損害が生じる可能性、つまり、「ある一定期間に好ましくないイベントが発現する確率」を意味します。

頻度の尺度 Measures of Frequency

リスクが生じる頻度や可能性は「頻度の尺度」で表すことができます。 割合あるいは分数は、分子が分母に含まれている場合の尺度です(例:胎児死亡/全死亡)。割合は多くの場合、パーセンテージで表記されます。 率は一定期間内における割合の変化ですが、その期間は仮定のものであったり特定されていない場合もあります。たとえば、「胎児の生存率が90%であった」とは、ある期間の開始時点で生存していた乳児の90%がその期間の終了時点も生存していたことを意味します。 最後に、比は、分子が分母の部分集団ではない、2つの独立した数量の関連性です。たとえば、胎児死亡の比は「胎児死亡:生児出生」で表されます。 上述の胎児死亡率の例のように、ある特定の割合、率、比では、分子と分母が定義されます。そのほとんどはある一定期間(たとえば、1年や一生など)や人数の単位(×1,000人などの乗数)とも関連し、報告されなければなりません。

リスクの尺度 Measures of Risk

罹病率:有病率および罹患率
病的なとは、「病気に関連した」状態のことで、罹病は病気や障害や原因によらず健康状態が悪いことを指します。「疾患」「障害」、「病的状態」、「疾病」の用語は使い分けされていないことが多く、また、罹病率は有病率や罹患率として表されることもあります。有病率は、一定の期間内にある疾病の診断を受けていた人の割合です。
1999年の前立腺がんの有病率は、男性1,000人当たり11人(1.11%)であった。
有病率の指標は複数ありますが、代表的なものとして、ある時点で疾病の診断を受けていた人の割合を示す時点有病率と、ある特定の期間に疾病を有していた人の割合を示す期間有病率の2つがあります。後者には、生涯有病率あるいは生涯リスク、すなわち、生涯のいずれかの時点で疾病の診断を受けるであろう人の割合を示す指標があります。
前立腺がんの生涯リスクは14.3%である。
これは、すべての男性の約14%が生涯いずれかの時点で前立腺がんと診断を受けるであろうことを意味する。
罹患率(瞬間罹患率と呼ばれることもある)は一定期間(通常短期間)内に新たに疾病と診断される率です。すなわち発症の可能性があるすべての人数のうち、ある期間内の新規の発症数です。
2012年の前立腺がんの罹患率は、男性10万人当たり105人(0.11%)であった。
もう1つ一般的な罹患率に累積罹患率(罹患割合または累積割合ともいう)があり、これは、一定期間(通常長期間)内に新たに罹患した人の割合で、特定の部分母集団に用いられます。
69歳までの黒人男性における前立腺がんの累積罹患率は15.0%である。
罹患率と有病率はしばしば混同されます。有病率は人口あたりの割合であるのに対して、罹患率は発生率であるということを覚えておきましょう。

死亡率
死亡率とは、ある期間内に死亡する人の割合です。
2012年の前立腺がんによる年間死亡率は、男性10万人当たり21人(0.02%)であった。
致命率は死亡率のひとつで、流行性の疾病の場合にとくに有用な尺度です。致命率は、ある疾患に罹った人のうち、ある期間内にその疾患により死亡した人の割合です。
前立腺がんによる10年間の致命率は約1%である。

リスク
リスクとは、ある一定期間に好ましくないイベントが発現する確率です。リスクは、どのように報告するのかが重要です。20分の1のリスクは43分の1のリスクよりも低いようにみえますが(20が43よりも小さいため)、実際は、20分の1のほうが高いリスクを示しています。同様に、20分の1のリスクは200分の10のリスクよりも低いようにみえますが、2つのリスクは同じです。また、100分の6の確率は6%や0.06と同じですが、しばしば異なるものとみなされます。絶対リスク(あるいは単にリスク)は、ある特定の状況が個人または集団の健康に影響を及ぼす確率です。
前立腺がんの
(絶対)リスク
=
前立腺がんに罹患している男性の人数
前立腺がんを発症する可能性のある男性の人数
疫学研究では、絶対リスクを算出する際に、地理上の地域および期間も明確に定義する必要がある場合もあります。
2014年に
オハイオ州に住んでいた
男性の前立腺がんの
絶対リスク
=

2014年にオハイオ州で
前立腺がんに罹患していた男性の人数
2014年7月1日時点でオハイオ州で
前立腺がんを発症する可能性があった
男性の推定人数
経過観察中(未治療)の前立腺がんによる死亡の絶対リスクは13.6%である。
前立腺切除術施行後の前立腺がんによる死亡の絶対リスクは7.4%である。
絶対リスク差、寄与リスク、絶対リスク減少率(absolute risk reduction:ARR)は、単純に2つの絶対リスクの差です。
前立腺切除術を受けた前立腺がん患者と経過観察中の前立腺がん患者の
死亡率の絶対リスク差は6.2%である(上述の例から13.6%-7.4%=6.2%)。
言い換えると、前立腺切除術の施行により死亡リスクが6.2%減少するということである。
相対リスク減少率(relativeriskreduction:RRR)または相対リスクは、絶対リスクの差であり、対照群(未治療群)のリスクを百分率で表したものです。
前立腺切除術による前立腺がん死亡の相対リスク減少率は46%である
(上述の例から6.2%÷13.6%=46%)。
リスク比は、単に2つの絶対リスクの比です。リスク比が1ということは、2つの群のリスクが等しいことを示します。
経過観察中の前立腺がんによる死亡のリスク比は1.8である(13.6%÷7.4%=1.8)。
つまり、前立腺切除術よりも経過観察を選択した男性は、前立腺切除術を施行した男性に比べて
前立腺がんで死亡する可能性が1.8倍高い。
リスク比は、ある集団のリスクを別の集団のリスクで除したものであるため、どちらの群を分子に、どちらの群を分母にするのかが重要となります。
リスク比が2の場合、ある集団のリスクは別の集団の2倍(200%)である。
リスク比が0.5の場合、ある集団のリスクはもう一方の集団のリスクの半分(50%)である。
この例で示した比はいずれも、ある集団のリスクがもう一方の集団のリスクの2倍であることを示しています。したがって、慣例では、イベントを防ぐ要因がある場合は1より小さいリスク比で示し、好ましくない要因がある場合は1より大きいリスク比で示します。
前立腺切除術を施行した場合の
前立腺がんによる 死亡のリスク比は0.54である(7.4%÷13.6%=0.54)。
つまり、前立腺切除術を選択した男性は、経過観察をした男性に比べて
前立腺がんで死亡する可能性は約半分である。

オッズ
オッズは、あるイベントが発現する確率をそれが発現しない確率で除したものです。オッズはリスクと同じではありません。 1組52枚のトランプからハートを1枚選ぶリスク(確率)は13/52=1/4=25%である。
一方で、ハートを選ぶオッズは、ハートを選ぶ確率を、ハートを選ばない確率で除したものである(13÷39=1÷3=33%)。 アウトカムが比較的まれなものである場合は、オッズとリスクは近似した値となります。たとえば、1組52枚のトランプから絵札を選ぶリスクは12/52(約0.2)であるのに対し、オッズは12/40(0.3)となり、両者にそれほど大きな差はありません。一方で、アウトカムが比較的よく出現するものである場合は、オッズはリスクよりも大きくなります。たとえば、トランプの偶数のカード(絵札は含めない)を選ぶリスクは20/52(約39%)ですが、オッズは20/32(約63%)と39%とはかけ離れたものとなります。
臨床試験では、経過観察中の前立腺がんによる死亡のオッズは16.2であり、
前立腺切除術を施行した場合は7.5であった。

オッズ比
オッズ比は、ある集団でイベントが発現するオッズを別の集団でイベントが発現するオッズで除したものです。オッズ比が1の場合、両集団のオッズが等しいことを意味します。オッズ比は理解するのが難しいもののロジスティック回帰分析のアウトカムの尺度であり、疾病の真の発現率がわからない後ろ向き研究で用いられることが多いため重要です。たとえば(後ろ向きの)症例対照研究では、注目すべきイベントが発現後に標本が抽出されます。20年前の喫煙者の人数はわかりませんが、抽出された標本のうち喫煙者が何人で、そのうち何人が心臓発作で死亡したのかを知ることはできます。そのため、心臓発作を起こした喫煙者の人数を、心臓発作を起こさなかった喫煙者の人数で除することで、喫煙によって心臓発作を起こすオッズを求めることができます。
喫煙者が心臓発作を起こすオッズは、14÷22で0.636である。
非喫煙者に対する喫煙者の心臓発作を起こすオッズ比を知るには、非喫煙者が心臓発作を起こすオッズを計算します。
非喫煙者が心臓発作を起こすオッズは、5÷33で0.152である。
次にオッズ比を計算します。
喫煙者と非喫煙者の心臓発作のオッズ比は0.636÷0.152で4.2となる。
つまり、喫煙者が心臓発作を起こす可能性は非喫煙者の4.2倍であることがわかる。
また、先述の前立腺がんの例では、次のようになります。
前立腺切除術施行と経過観察(未治療)との前立腺がんによる
死亡のオッズ比は2.2(16.2÷7.5)である。

ハザード率ハザード率は、ある一定期間にイベントが発現しなかった場合、次の一定期間にイベントが発現する確率です。ハザード率は、アウトカムが2値(生存あるいは死亡など)でイベント発現までの時間を評価する前向きの研究に用いられます。また、ハザード率は、Cox比例ハザード回帰分析の成果でもあり、どの因子が生存あるいは死亡と関連しているのかを特定する場合にも用いることができます。ハザード率とハザード比は、リスク率とリスク比のように同じものとみなされることが多いですが、ある決められた期間内に適用されるという点で異なります。
治療効果の指標治療効果の指標は、臨床的介入量とアウトカムの関連性を表しています。代表的なものは治療必要数(number needed to treat:NNT)で、これは何人の患者を治療すると好ましいアウトカムが1人に発現するのかを表します。NNTは絶対リスク減少率の逆数になります。
前立腺がんによる死亡を1人防ぐためには、根治的前立腺切除術を
16.1人の患者に施行する必要がある(1÷[0.136-0.074]で16.1)。
また、NNTの補完的な治療効果の指標として、有害必要数(number needed to harm:NNH)もよく用いられます。これは、何人の患者を治療すると治療関連有害事象(や副作用)が1人に発現するのかを表します。
前立腺切除術を3人の患者に施行するごとに1人に勃起不全が発現する。

自然頻度自然頻度とは、単に集団の単位ごとに影響を受ける人数を示します。たとえば、前立腺がんに対する2つの治療による死亡の絶対リスクは、自然頻度で表すこともできます。
前立腺切除術を施行した場合、前立腺がん患者100人中7人が死亡する。
経過観察とした場合(未治療)、前立腺がん患者100人中11人が死亡する。
このリスクの尺度は、表1のWomen's Health Studyのデータで示すように、他の尺度に比べて最も理解しやすいものと考えられます。
表1

リスクの報告の仕方が重要リスクの尺度を報告することと、読者にリスクの程度を伝えることはまったく別の問題です。表2で示した尺度(説明方法)はいずれも一般的に用いられているものですが、尺度によってリスクがどの程度深刻か、異なる印象を与えてしまう可能性があります。著者の研究によれば、少なくとも絶対リスク(と集団のサイズと、注目すべきアウトカムが発現する割合)は必ず報告する必要があります。これらのデータから他のすべての尺度を計算することができるからです。
表2

参考文献

LangTA,SecicM.HowtoReportStatisticsinMedicine:AnnotatedGuidelinesforAuthors,Editors,andReviewers.Philadelphia:AmericanCollegeofPhysicians,1997.ReprintedinEnglishfordistributionwithinChina,1998.Chinesetranslation,2001.Secondedition,2006.Japanesetranslation,2011;Russiantranslation,2013.